World725




お茶人様へ
10000hitキリリク小説
『憧れの人』(バルヴァン)

※パラレルになっています。ご注意ください!



「「宜しくお願いします!」」



 抜けるような青空に少年達の声が響き渡った。キラキラと太陽の光が水面に反射して眩
しい。それに負けないほどキラキラと輝くプラチナブロンドの髪の少年。



「早速始めようか」

「はい!」



 コーチに声をかけられ、少年は何よりも輝く笑顔を浮かべた。




 ここは、高校の屋外プール。今年新たに入学した新入生たちが、初めて部活に参加して
いた。



「あ、あれバルフレアさんじゃねぇ?」

「おぉ」



 遅れてプールサイドに現れた人影に皆の視線が集まった。
 この部活に参加した新入生の、もしかしたらこの高校へ入学した生徒の半分が彼目当て
と言っても過言では無いかもしれなかった。


「お、やってんな」



 バルフレアは、新入生の視線に気付くとコーチに近付き声をかけた。



「皆、君に憧れての入部のようだ」

「半分はバッシュに乗り換えるぜ」



 バルフレアはにやりと笑った。
 バルフレアは、いかにもスイマーといった肩から胸にかけて美しく筋肉がついている。
そして、モデルと見紛う程にバランスの良くすらりと背が高い。
 そのうえ、すっと通った鼻に鋭い瞳に誰もが視線を引き寄せられた。

 ふと…バルフレアの視界に目も眩むようなプラチナブロンドが飛び込んで来た。



「眩しいな」



 思わずバルフレアに声をかけられたその少年は、勢い込んで声を上げた。




「俺!アンタみたくなりたくて!」

「・・・名前は?」

「ヴァン!」



 礼儀も何もあったもんじゃない、そんな態度だったけれど。
 自分に憧れて違う気を引くために声をかけてくれ奴なんて山ほどいた。 けれど、ただ無邪気に憧れの視線で見上げてくる眩しい笑顔にバルフレアは何かを感じ
た。



「まぁ、せいぜい頑張れや」



 バルフレアは、ヴァンと名乗った少年の頭をぽんっと軽くたたくと身を翻し、目の前に広がる水の中に消えていった。



 その様子を見て、他の新入生たちが嫉妬と羨望でヴァンに口々に何か言う。
 そんな様子を、苦笑しながらもバッシュは皆をたしなめていた。

 そして・・・

 珍しくバルフレアの気を引いた少年を感慨深げに見つめていた。





***





 自分があんな風に、バルフレアに声をかけてもらえるなんて思ってもいなかった。
 ウキウキと浮き足立ったヴァンは、その日も授業に身は入らずぼーっと窓から外を眺めていた。

 
 ふとプールに人影があるのが見えた。



 舞うように、美しくその姿が水の中に消えた。それはすぐ水面に浮かび上がり、まるで水の上をすべるように、影は移動していく。



 あまりの美しさに、授業の様子も教師の声も何も聞こえなくなっていた。
 すると突如視界がぶれて、頭に痛みを感じた。



「いてっ」

「おい!ヴァン!いつまで余所見してるつもりだ」




 顔を上げると、そこには怒りに顔を赤くした教師が立っていた。




「なんだ・・・バルフレアを観ていたのか」




 教師の一言で、教室中の生徒が窓にかじりついた。

 バルフレアは、国を代表する選手であるため授業時間も関係なく、好きなとき好きなだけ練習できる。
 けれど、彼の成績は素晴らしく文武両道の選手として有名だった。



「お前も、水泳部だったか。」



 その後ぶつぶつと言いながら、教師は授業に戻っていった。
 ヴァンは、結局教師の言葉に授業に意識を戻すことなく窓の外を眺めていた。





***




「なぁ、アイツお前の部活の後輩だろ?」




 昼休み、久しぶりに教室に顔を出すとすぐクラスメートに声をかけられた。
 バルフレアは、指差された方向に視線を投げるとそこには水面の揺れるプールが目に飛び込んできた。

 そして、揺れる水面の奥にプラチナブロンドが留まる。



「あいつ・・・」



 なんだかんだ、自分に憧れ入部してくるヤツはいた。自分がプールサイドに現れれば皆、目に留めてもらおうと一生懸命練習に励んで見せた。

 けれど、自分に真正面からぶつかってきて、自分がいない間に死ぬ気で練習する。
 バルフレアの中に、不思議な感情がわいた。


 しかし、何か心に引っかかるものがある。
 それが何か分からず、バルフレアは再び問いかける友人の声に返事をすることなく、そのプラチナブロンドを見続けた。




***





 水の中を滑るように泳いだ。
 水の中に居れば、そこは不思議な世界だった。

 ただひたすら腕を動かして水をかき、足を動かして水を蹴った。

 それだけが、バルフレアの傍にいけるたった1つの手段であるかのように・・・ただ無心に。





「ぷは」




 さすがに限界と水面から顔を上げる。
 すると、逆光で表情は見えないけれど、見間違えるはずもないその人の影が目に飛び込んできた。




「アンタ・・・!」

「バルフレア、だ」

「バルフレア!」




 偶然会えたことに嬉しくて、うきうきとその名前を呼んで見た。
 心なしかバルフレアが、照れくさそうに笑った。




「ヴァン、お前泳ぎすぎ」




 そうか、って妙にナットクした。
 俺はきっと、ここでこうやって泳いでいれば、いつかまたバルフレアとこうやって会って話せるかもしれないから・・・だから、毎日泳いでることが楽しかったんだ。

 それに・・・練習して早くなれば、バルフレアの隣に立つ選手になれるかもしれない。




「いいんだ、俺・・・バルフレアの傍に行きたいから」

「・・・ばかか」



 またバルフレアが、しかめっ面をして立ち上がると俺に手招きをした。

 不思議に思いながらプールサイドに寄ると、その腕をつかまれて強引に水から引き上げられてしまった。




「な・・・まだ泳ぐって!」

「いいから、黙ってついて来い」





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