World725

未来への光(ED後模造)


第五話『見えざる敵』



 ザレッホ火山入り口で、俺たちはジェイドとティアに物質から身を守る譜術をかけてもらった。



「といっても、これがどれくらい持つか分かりません。十分警戒して進みましょう。」



 俺は頷いて慎重に足を進めた。
 内部は、ザレッホ火山の熱気とは別に、通路を舞うように煙のようなその物質が充満していた。
 なるべくそれに触れぬよう、狭い通路を先へ先へと進んでいく。

 ふと、ティアが口を開いた。



「セフィロトを守るモンスターも何もいないわ・・・」
「ああ・・・音素乖離には勝てないってことかな」



 少し震えるような声なのに気づいて、俺はティアを振り返った。
 心なしかティアの顔色が悪い気がした。



「・・・ティア?気分悪いのか?」
「ルーク・・・ありがとう、大丈夫。」



 その言葉とは裏腹に、ティアは思いつめるようまなざしをした。
 良く考えてみれば、ティアはユリアの子孫でこのオールドランドの歴史を背負って来た。
 それが、未知なる物質によって音素を破壊されるなんて・・・きっと・・・。



「!?」



 俺は、奥へと続く通路の横に走る狭い段差の奥から何かの気配を感じた。
 仲間を見渡しても、誰も何も気づいていないみたいだった。



「ジェイド!」
「ルーク、どうしましたか?」



 後方を歩くジェイドに声をかけた。



「あっちに・・・気配がある!」
「あの段差の先ですか?」
「うん。感じるんだ。」



 何だろう、分からない。胸がざわめくこの感覚。
 ただそれは、気配の予感を確信に変えるほど強いものだった。



「俺ちょっと行って見てくるよ。」
「分かりました。私たちはここで待機していましょう」
「ジェイド、ルーク1人じゃ心配だ」



 ガイの一言に、みんながそうだそうだと頷く。
 しかし、ジェイドは躊躇うことなく告げた。



「全員であの狭い段差の先に行くほうが危険です。譜術が切れれば全員音素乖離です。」



 そう言うと、改めてジェイドは身を守る譜術を俺に詠唱した。ティアも仕方なさそうに譜術をかけた。



「ルーク。何か異変があれば深追いせずすぐ引き返してください」
「わかった、行ってくるよ。」



 俺は、身体で感じるその気配をたどって奥へ進んでいった。





***





 段差の先は、以前ザレッホ火山を訪れたときとは地形が変わっており、もっと先に進めるようになっていた。
 それが、ザレッホ火山のどこへつながっているかは不明だったが物質の密度が数段濃くなっているようだった。

 振り返ると、ほんの数m歩いただけのつもりがもう厚い物質の壁に阻まれ、みなの声も聞こえなくなっていた。



「やばい・・・かな?」



 少し胸によぎる不安を口にしたとき、自分の傍を何か気配がよぎる感じがした。



「な・・・!」



 咄嗟に身を翻し、気配の行き先を見るがそこには何もない。ただ、煙のようなその物質が不自然に渦を巻くようにしているだけだった。



「・・・くっ!」



 さらにまた、何かがよぎる。鹿には何も移らないのに、気配だけがルークの腕を傷つけた。
 断続的に受けるみえない気配からの攻撃に、ひたすら身を屈め翻しそれを避け続る。


−−−きりがない!


 そう思ったとき、足元にある何かが視界に飛び込んできた。
 それは、紅色に広がる髪。



「アッシュ!」



 急いで夜場によると、苦しげに呼吸をするアッシュが横たわっていた。


 それは驚きというより、再確認。
 予感はここで確信に変わった。
 自分はアッシュを感じていたんだと。

 しかし、アッシュは意識はなく体中が傷だらけだった。先ほどルークが受けたような傷が無数に体中に出来ている。


−−−あれが、アッシュを・・・?


 そう怒りを感じた途端、俺は全身の血が沸騰するような感覚を覚えた。
 そして、頭の奥に譜歌が響きわたり・・・ルークは白い闇に意識を放した。



 その瞬間、ルークとアッシュを取り巻く空気が変わる。
 ゆらりとルークは立ち上がり、見えない気配の行き交う物質を見つめた。



『よくも、私の分身を・・・』



 もうその声は、ルークから発せられる声色とは違うものだった。

 その異様な雰囲気に、意識を失っていたアッシュは目覚めていた。



「・・・なんだ・・・?」

『よくも・・・』

「ルーク!」



 しかし気配のみを見せる敵は、さらにルークに攻撃を加えるがルークは避けようともしない。
 どんどん体中に傷がつき、ルークの身体からは血が溢れた。



『・・・よく・・も・・・』

「ルーク!目を覚ませ!!」



 アッシュが必死にルークを呼ぼうともそれに応えず、ルークは剣を抜いた。



「おい!やめろ!」

『・・・よくも私の・・・!』



 ルークは見えない気配に向かい剣を構えた。



「うぁああああああああ」



 ルークの体から超振動が放たれる。


−−−やばい・・・このままでは再びルークは消えてしまう


 咄嗟にそう判断したアッシュは、ルークの手を取ると同時に超振動を放った。


 超振動に呼応するように、空気が震える。そこに漂っていた気配は物質ともども霧散する。
 さらに、超振動の衝撃によって震える岸壁が次々と崩れ落ち、ルークとアッシュを飲み込んでいった。




続く




Novel-2-へ