『俺を呼んで』
レプリカは、時々想像を超えるバカになりやがる。真剣に大事に思うがゆえに、俺は本当に頭に来る時がある。
「・・・なんだと?」
「だから、アッシュが名前をつけてくれよ。」
そもそもコイツがこんな馬鹿な発言をするのは、くそ暑い陽気のせいかそれとも元々こいつがバカだからか。
「レプリカは、頭脳まで劣化か?ふざけるんじゃねぇ!」
アッシュは、そう怒鳴ると「もう、話すことは無い」とばかりにルークに背を向けると部屋を出て行こうとした。
「ちょ・・・、話はまだ終わってない!だいたい、なんでそんなにアッシュが怒るんだよ!」
ルークは、あせったようにアッシュの前に立ちはだかった。アッシュは、ルークの胸倉を掴みあげた。
「うっ・・・くるしいって!」
「うるせぇ、お前のくだらん会話につき合わされるのはウンザリなんだよ。屑が。」
しまった・・・、とアッシュは思った。
つい、言い過ぎてしまう自分がいる。傷つけたいわけじゃない、でも歯がゆい思いに結局ルークを傷つける言葉を吐いてしまう。
ルークの肩が震えた。
俯いたルークの顔は見えないが、零れ落ちる涙がアッシュの手を伝った。驚いて胸倉を掴む手を緩めると、ルークはアッシュを押しのけるようにして、言った。
「アッシュ・・・アッシュは、俺を呼ばない・・・。レプリカとか・・・屑とか・・・でも名前で呼んで欲しいって・・・俺がどんな顔で言える?・・・」
「・・・お前・・・」
「でも・・・それでももう・・・レプリカも屑も嫌なんだ・・・俺を呼んでよ・・・」
そういうと、ルークは部屋を駆け出した。
「ちっ」
舌打ちして、追いかけるため部屋を飛び出そうとすると、何かにぶつかる。
「おーい!あぶないな〜、ルークにしろアッシュにしろ」
「五月蝿い」
「なんだ、ルークとまた喧嘩か?」
放っておけないと、ガイが心配そうにアッシュを覗き込んだ。
元はと言えば、誘拐されるまで親友だったのは俺とガイ。ルークが『記憶喪失』として屋敷に戻された後、ルークは俺の記憶を重ねられガイとともに時間を過ごしてきた。
あいつは、それを知ったとき・・・どんな気持ちだったんだろうか。
「レプリカに・・・名前をつけろといわれた。」
「ルークに・・・?ふぅん、そういうことか。」
2人の事情を察したガイは、やや深く考え込むと再び口を開いた。
「アッシュ、お前はどうなんだ?」
「何がだ」
「大事なのはお前の本当の気持ちさ。ルークが聞きたいのも、多分そうだろう?」
「・・・。」
俺は、ガイにうなずくと再びルークを追いかけた。ここで、見失うわけにはいかない。
ギンジに声をかければ、ノエルとともにコーラル城にむかったと言う。ギンジに頼み、アッシュも急いでコーラル城へ向かった。
なんであいつ・・・そんなところへ・・・。
コーラル城に着くやいなや、足早に入り口の門を抜け城内へ向かった。薄暗い廊下と、解かれたカラクリを抜け、屋上へ出ると赤い髪が見えた。
「おい、レ・・・」
「・・アッシュ・・・」
振り向いたルークの頬には、また新たに涙の跡が出来る。見ていられなかった。
アッシュは、ルークに歩み寄るとぐいと頭を引き寄せ胸に抱いた。
「泣くな」
「・・・俺は・・・どうして・・・」
「黙れ」
胸で震えるはかない存在に、アッシュは胸のつまる想いだった。
「いいか、お前は俺のレプリカだ。」
「うん・・・」
「だから、絶対の権限が被験者の俺にはある。」
「・・・うん・・・」
「俺は、お前に『ルーク』と名づける。それは、俺の名前を奪うとかじゃぁない。この意味がわかるか?」
「・・・アッシュ・・・」
「俺がお前につけた名前だ。」
そういう告げると、ルークは新たにまた肩を震わせてアッシュにしがみついてきた。互いに辛い思いをしてきた。それを変えることも、それから逃げ出すこともできない。俺たちは、立ち向かわなければいけない。
だからこそ・・・
「顔をあげろ、ルーク」
「・・・うん・・」
まだ涙に塗れた瞳で、ルークは俺をみつめた。俺のレプリカなのに、俺より少し華奢な身体、俺より繊細な瞳・・・全てがもうルークだった。
「・・・ルーク。」
「・・アッシ・・・ん・・・」
触れるように、そして深く、俺はルークに口付けた。ただ、それが当然であって自然なような気がした。
ルークを抱きしめる力が強くなるのと同じに、ルークが俺を抱きしめ返す力も強くなっていった。
このまま1つに溶けていくような感覚・・・ 俺たちは、1つになるためにこうやって求め合うのだろうか。
答えの無い問いを忘れるかのように、ルークに深く深く口付けていた。
END
いつだってキスどまり。
それがうちのAL。
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