World725

『両想いの片想い』



「たまにゃ、ちょっと一杯ひっかけに行くか。」


 旅の途中、立ち寄った港町バーフォンハイムでそんな流れになった。
 パンネロやアーシェは、通路に立ち並ぶ露天で早く買い物がしたくてそわそわし、フランは寄りたい所があると言い出していた。



「じゃ、また夜に宿集合ね」



 フランがそう言うと、女性陣はさっさと各々の行く先へ向かってしまった。
 取り残されたヴァン、バッシュ、バルフレアがどうしたもんかと顔を見合わせていると、バルフレアが酒場に行こうと提案した。



「ヴァン、お前はジュースな」

「なんだよ、ちょっとぐらいいいじゃん!」



 いつもどおりバルフレアの意地悪と、それをほほえましく見守るバッシュ・・・って感じで。
 3人は酒場へ向かった。





***





「はぁい、バルフレア。今日はお友達連れてるのね」



 酒場に入ってすぐ、バルフレアと顔見知りらしい女の人が近づいてきた。
 綺麗に装飾された衣装を身に纏い、赤い口紅を縫ったいかにも・・・な人だった。



「よぉ、最近何かとひっぱりだこでね」

「ふふ、新しい子が入ったの。紹介するわ」



 そういって、後ろからもう1人似たような女の人が現れた。



「この子、レイン。私は、ミーシェルよ。」

「はじめまして、レインです。」



 そう自己紹介すると、さっと2人は円形のテーブルを囲うようにスツールに腰掛ける、俺たちの間にそれぞれ座ってきた。



「そちらは?」

「私は・・・バッシュだ」

「そっちのガキは、ヴァンだ」



 顔を全然崩さないバッシュとは対照的に、少し不機嫌そうに俺を紹介する。



「な!ガキっていうな!」



 そんなやりとりをレインとミーシェが楽しそうに見ている。
 そんなうちに、どんどん酒や食べ物が運ばれてきてみんなもいい感じに酔っ払っていった。





***






 最初、ちょっと一杯・・・なんてバルフレアが言った時。俺は3人で色々話せるのかと思って、すっごい嬉しかった。

 お酒を飲んだ時の2人は、少し上機嫌で色々普段話さない事を話してくれる。
 それに何だか2人みたいに・・・大人の仲間入りみたいな気分にもなれたから。


 でも・・・今日は違った。



 最初は機嫌悪く見えたバルフレアも、無表情だったバッシュも、お酒がはいって上機嫌になってるみたいだった。
 でも、それぞれレインとミーシャとばかり話している。

 俺が退屈そうにグラスの氷とにらめっこしていると、ミーシェが俺の頬に触れた。



「ヴァン・・・もっと色々話しましょ」



 でも、いつの間にかまたバルフレアがミーシェの肩を引き寄せて会話にもどっていって・・・。
 なんだか面白くなかった俺は、バルフレアやバッシュの飲みかけの酒をどんどん口にしていった。

 最初は、まずくて喉が焼けそうだったけど・・・それが胸のもやもやをかき消してくれるような気がして。
 そのうち、もうどうでも良くなってきた。

 頭がふわふわしてきたとき、バルフレアが思い出したように声をかけてきた。



「おい、ヴァン。飲みすぎだ。」

「べ〜つにいいだろ〜」



 明らかに間延びした自分の言葉に、面白くてすこし笑える。
 くすくす自分に笑う様子の俺を心配してバッシュが、気遣わしげに声をかけてくる。



「大丈夫か、ヴァン。そろそろ・・・」

「あーぁ、しょうがねーな。これだからガキと一緒だと・・・」



 いつもは、そんな冗談も笑って流せるのに・・・今日は、胸の奥で燻っていたもやもやが熱く燃え上がった。



「なら、最初から誘わなきゃいいだろ!」

「なに?」

「勝手にすれば・・・!俺、先帰る!」



 我慢できなかった。
 俺は、スツールから飛び降りるとふらつく足を引きずって店を飛び出した。



「ヴァン!」



 知らない知らない知らない・・・!!!
 振り返ってなんてやらない。
 遠くで聞こえるバルフレアの苛ついた声を無視して走り出した。



 悔しくって涙が出そうだったけど、そんなの振り切るように走った。










「っはぁ・・・」



 気がつくと、海の見える広場に出てた。
 昼間は、人々が集まってにぎやかだけど夜は静まり返ってた。

 走って荒くなった息を落ち着かせるようにゆっくり歩く。ちょうど海沿いに設けられたベンチを見つけ、街を背に腰掛けて俺は月が写る海をぼーっと眺めてた。

 落ち着いてくると、またさっきの光景が浮かび上がってきた。



 ミーシェの肩を抱いて、気だるそうに話すバルフレアの横顔。
 あんなの見たくなかった。


 俺が居なければ・・・あの人を口説いてたのかな。
 だから、俺を邪魔者みたいに言ったのかな。



「・・・ふっ・・・・。」



 なんだか、スゴイ悲しい気分になって勝手に涙がこぼれた。



 ちょっと前に・・・バルフレアが、俺を好きだって言った。
 憧れの空賊バルフレアにそんな風に言われて、信じられなかったけどすごい嬉しかった。

 恋愛とかそういうの、疎かったけど・・・その言葉が特別だって、なんとなく分かったから。


 それから、みんなに隠れてこそこそキスをしたり、抱きしめあったりして・・・そういうのがすごい幸せだった。



 でも、段々胸によぎる不安。

 今までいろんな女の人と付き合ってきたバルフレアが、どうして俺みたいなのを?っていうこと。


 一緒に居るときは、そんな不安を絶対思わせたりしないけど・・・
 時々1人になると、考えるようになった。




 そして、今日の出来事。




 ・・・ちょっとだけ・・ヤッパリなって思う自分がいた。

 そんなの空賊の単なる気まぐれで、本気にしてる俺がバカなんだって。
 結局、そういうことなんだよな?


 そーだよ、バルフレアなんて最初から冗談のつもりだったんだよ。


 忘れよう、もういいや。
 傷つくのもばからしいや。





「なんて・・・あきらめられるわけ・・・ふっ・・・ないだろ・・・えっく・・・バルフレアの・・・ばかやろ・・・」

「誰がバカだって?」




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