『背を向ける痛み』
飛空挺は、大きいタイプだと結構客室やら遊戯室やらあったりして広かったりする。 豪華客船みたいなもんか。
「おーい、バルフレア!」
自分の飛空挺のアップグレードの素晴らしさに見惚れてるところを邪魔するヤツがいる。
「なぁんだよ、ヴァン。せっかく人が・・・」
「すごいぜ、あっちの客室!遊戯室がすっごい広くなってるし!」
「ったく・・・。」
俺は、ヴァンをぐいっと引き寄せて肩を組むと目の前の展望窓を指差してやった。
「落ち着いてアレを見ろよ。」
「・・・うわぁ・・・」
操縦席を取り囲むように作られた窓は、改造前よりずっと大きく作られていてまるで自分が空を飛んでいるような錯覚すら起こしそうな程だった。
試運転とはいえ、ラバナスタを見下ろすその景色は絶景だった。
「すごい!」
「だろ?」
「うん!」
素直に感動を表すヴァンの耳元で、囁くように告げる。
「真夜中にここでセックスしたら、さぞかし感動だろうな?」
「ば・・・何言ってるんだよ!!」
ヴァンは顔を真っ赤にすると、バルフレアの腕を振り払ってさっさと操縦室を出て行ってしまった。
可愛いヤツ。
−−−信じらんない!!
ヴァンは、どんどんと足音を立てて廊下を突き進んでいった。
あんな事言うなんて、あんな事・・・
「うわっぷ」
バルフレアのあの一言に動揺して、前も良く見ないで歩いてた俺は、物凄い勢いで何かに衝突した。
「あぶないぞ、ヴァン。」
「バッシュ!ごめん・・・。」
今日は、改造した新型シュトラールのお披露目で俺だけじゃなくてバッシュ、パンネロが顔を出していた。
アーシェやラーサーはその身分故ここに来たりはできなかったけど、お祝いのメッセージが届いていた。
「一段と素晴らしいな、この飛空挺は」
「う、うん・・・」
バッシュはあれから、少し変わった。精悍さとか勇ましさとかは変わらないけど・・・ちょっと明るくなった。暗い雰囲気がなくなったっていうか・・・。
だから、前よりずっとかっこいい。良く街行く女の子たちが、素敵!なんて噂しているのも耳にした。
「どうした?ヴァン」
「あ、いや・・・」
「ヴァンー!バッシュー!」
階段の上から、パンネロが呼びながら降りてきた。
「慌てて降りるとあぶないぞ!」
「大丈夫だよ、ヴァンみたいにドジじゃないもん」
「なにーー!」
そんな2人の様子をほほえましげにバッシュが眺めていると、ポンっと肩を叩かれる。
「フラン」
「ふふ、久しぶりね。」
「ああ、素晴らしい飛空挺だな」
「ほめるなら、あの人に言ってあげて」
騒ぎを聞きつけて、いつもの気だるげな足取りでバルフレアも現れた。
「おいおい、ガキどもは人の飛空挺で暴れやがって」
「あら、可愛いじゃないの」
「フランはあいつらに甘いな」
「・・・やきもち?」
また変わらぬこの2人のやり取りに、目を取られていると食堂から顔を出したミゲロが皆に声をかけた。
「おーい!パーティの準備はできてるぞーい。」
「飯だ!パンネロ行こうぜ!」
「もーヴァンったらー!!」
2人が一目散に食堂へ駆け出した。
「おい、転ぶんじゃねーぞ!」
バルフレアが2人に叫ぶ。
続いて、フランとバッシュが歩き出した。
「しばらく、シュトラールもにぎやかになりそうね」
***
「「かんぱーい!」」
バルフレアがどこぞから手に入れてきたという、高級そうなワインを片手にみんなで改めてシュトラールの改造完成を祝った。
久しぶりに皆で顔を合わせ、互いの近況を報告しあい、かつての旅の思い出を語る。
すっかり気を許した仲間たちは、大いにその時間を満喫していた。
「フラン・・・私眠くなっちゃった」
最初に限界を訴えたのはパンネロだった。今日は特別・・・と慣れない酒を口にしたため、すっかり眠気に襲われてしまったようだった。
「じゃ、客室へ案内してあげるわ」
「うん・・・」
目をこすりながらフランに寄りかかるパンネロに、そっと優しく髪を撫でて手を取った。
パンネロが、皆におざなりのおやすみを告げると2人は食堂を後にした。
「ヴァン、お前は大丈夫なのか?」
バッシュが心配そうにヴァンに問いかけると、ヴァンは間延びした返事を返した。
「うんー、大丈夫ー。バッシュも、もっとはしゃごうぜ!」
すっかり出来上がってしまったヴァンは、それでもワインボトルに手をかけさらに酒を注ごうとしていた。
「おいおい、お前もいい加減にしておけよ」
「もー、子供扱いするなよ〜〜」
ヴァンが拗ねたようにバルフレアをにらめつける。しかし、酒で酔っ払い上気した肌に、潤んだ瞳で見あげるその様子は、子供よりは十分な色香を漂わせていた。
「・・・はいはい。俺に絡むなよ」
「いいもん、俺はバッシュと飲むから」
やれやれ、といった感じでバルフレアがバッシュを見やると、バッシュもまた苦笑してヴァンをみやる。ヴァンはそのやり取りを面白くないと思うと、丁度パンネロを客室へ案内し終えたフランが食堂へ戻ってきた。
いいところに戻ってきた、といわんばかりにフランの横に陣取ると再び酒を注ぎだした。
「あらあら・・・どういう風の吹き回し?」
「せっかくなんだしー綺麗なフランと飲むほうが、ワインもおいしいよー」
「ふふ」
目の前の大の男がヴァンに振られた様子を楽しみながら、フランはヴァンとの会話を楽しんだ。
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