『幸せの原石』
「なぁ、パンネロ・・・ちょっといいか?」
「なぁに?ヴァンが珍しく悩み事??」
「うん・・・実は・・・」
***
「おーい、アイツしらねぇ?」
大きなモブ捕獲を終えて、少し懐が暖かくなった一行は、宿を取りのんびり過ごせる夜を送っていた。食事を終えてみんなで談笑を楽しんでいると、そこへバルフレアが現れた。
「アイツ・・・キミが言ってるのは、ヴァンのことか?」
「あ・・・バッシュ!・・・あの・・・ヴァンなら・・・」
「あぁ・・・そうだった、買出しを頼んだから・・・外だ。」
「バ、バルフレアさん、ヴァンに用事ですか?」
パンネロとバッシュのしどろもどろな会話に、違和感を覚える。
「・・・こんな時間に買出しか?」
「あ・・・そういえば・・・ちょっと帰りが遅すぎるかも・・・」
パンネロが、不安げにバッシュを見上げる。バッシュは、困り果てたように押し黙っていたが・・・仕方なくバルフレアに説明を始めた。
***
−−−4時間も前の話じゃねぇか
宿を飛び出し、街を駆け抜けながらバルフレアは苛立ちを抑えられないでいた。
『実は、ヴァンは明後日のキミの誕生日のために贈り物を贈りたいとパンネロに相談してきてな』
『うん・・・内緒にしていてほしいって言われて・・・あと・・・』
『あと・・・?』
街から数kmはなれたところに小高い丘があって、そこに原石のようなものがあるのを見つけたと言う。
ヴァンは、モブの帰り道に見かけたから、それを採掘に行くことを皆に隠しておいてほしいとパンネロにお願いしてきた。
それを磨いて、ピアスにはめ込んで誕生日プレゼントにしたいから・・・と。
−−−心配かけやがって。
夜の郊外は、昼間とは全然違う顔を見せることも少なくない。まして、モブのために遠出した見知らぬ土地でのことだったし気がかりだった。
不安と焦る気持ちを抑えて、思い当たる節のある場所へと足を早めた。
***
−−−あれ・・・おかしぃな
原石を手に入れるまでは、順調だった。
しかし、原石をポケットに入れて立ち上がったところで、多分岩陰にでも身を潜めヴァンを狙っていただろうモンスターに背中から襲われた。
辛うじて攻撃をかわしたものの、狼が大きくなったようなそのモンスターの鋭い牙が腕を掠めていた。
昼間には見たことの無いモンスターだったし、明らかに相手が各上に感じたヴァンは、モンスターの攻撃をかわしながら街へ戻っていくつもりだった。
ところが・・・
自慢の俊足も、痺れの回る身体では思うように敵を撒くことも叶わなかった。
あいつの牙には、毒が・・?
自覚するのが早いか、モンスターの足音はどんどん近づき背中を衝撃が襲った。
背後からさらに攻撃を受け、とうとうひざを突いてしまった。
「くっ・・・」
腰に下げた細身の剣を抜いて、攻撃しかえそうにも思うように手に力が入らない。
モンスターが口を大きく開き、今まさに噛みつこうとしたとき、銃声が鳴り響いた。
「ヴァン!」
バルフレアの放った銃弾が、モンスターの急所を突き抜けた。モンスターはヴァンの身体の上から転げ落ちるようにして倒れた。
「ヴァン!!」
バルフレアは、ヴァンの無事を確かめるために慌てて駆け寄る。
モンスターの返り血と自分の怪我で血まみれなったヴァンは、バルフレアの顔を見て小さく微笑みを零した。
「ごめん・・・ドジっちゃった・・・」
「・・・バカ野郎・・・」
小さく呟くと、バルフレアはぎゅっとヴァンを抱きしめた。
「バルフレア・・・これ・・・」
力なく上げられた手のひらには、赤く輝く原石が握られていた。
痛みに耐えながらも、得意げな笑みを浮かべて、言葉を続ける。
「誕生日・・・バルフレ・・・ア・・・大好き・・・」
「ヴァン!!」
力なく崩れ落ちたヴァンの身体を抱きとめると、手のひらから零れ落ちた原石をポケットにしまう。
急いでヴァンを背負い立ち上がると、ひたすら手モンスターを避けて宿へと向かった。
***
あれからヴァンは、2日間も目を覚まさなかった。
宿に戻り、魔法だけではなく万能薬を使い回復させたものの・・・怪我と毒のダメージは大きく、熱と毒に魘された。
「・・・あれ・・・・?」
朝日がまぶしくて目が覚めた。身体を起こすと、ベッドに頭だけうつ伏せたバルフレアが見えた。
少し疲れを滲ませた横顔に胸が痛む。
−−−そういえば、俺・・・・
「ヴァン・・・」
ヴァンの身じろぐ気配に、目を覚ましたバルフレアがじっとヴァンを見つめていた。
「バルフレア・・・ごめん、俺・・・わっ」
慌ててバルフレアに謝る俺をよそに、バルフレアは急に抱きついてきて・・・俺はびっくりした。
耳元で、バルフレアが搾り出すような声で囁いた。
「お前をうしなっちまうのかと・・・」
「バルフレア・・・ごめん・・・俺・・・」
「あぁ」
「ギルないし・・・でも、どうしても・・・その・・・誕生日喜ばせたくて・・・」
しどろもどろに言い訳する俺を、バルフレアはらしくなく優しい瞳で見つめていた。
そんなバルフレアに、俺は戸惑ってますますドキドキして緊張してしまう。
「お前といたら退屈知らずだな」
「う・・・」
意地悪を言いながらも、優しく髪を撫でてくれる。
そっと俺の額に、額を当ててそっとバルフレアが囁いた。
「お前の無事が、何よりもありがたいプレゼントだよ」
「バルフレア・・・誕生日おめでとう・・・」
俺は、普段はしなくて慣れないけど・・・勇気をだして、そっとバルフレアに唇を重ねた。
END
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