『繋いだ手が離れても』
第三話
「ヴァン!おきて!」
「ん・・・。」
「ヴァン!置いて行くよ!」
「パン・・・ネロ・・・?」
部屋の扉のところで困ったような顔をしてパンネロが俺を起こしていた。
寝ぼけた頭を何とか覚醒させて身体を起こすと・・・ベッドに1人だった。
眠るときは一緒だったバルフレアがいない。
「あれ?バルは・・・?」
「それが・・・1人で行っちゃったらしいの。」
「え!?」
シュトラールにはフランが残っていた。
フランが言うには、今は1人で動くときだから・・・と言っていたらしい。
多分、フランの目がいつもより優しかったのは・・・俺に同情しているせい。
いたたまれなくなって、俺はすぐシュトラールを飛び出して自分たちの飛空挺へ戻って行った。
・・・ねぇ、バルフレア。
どうして、俺を置いて行ったの。まだ、俺は足手まといだから?
こんなとき、俺はどうしたらいいんだよ。
教えてよ、バルフレア。
俺、バカだからわからないよ・・・。
「ヴァンは?」
飛空挺に戻ってすぐ、自分の部屋に閉じこもってしまった俺を心配して、トマジがパンネロに問いかけた。
パンネロは困ったようにトマジに言った。
「それが、バルフレアさんが事情を聞いて・・・ヴァンを置いて行ってしまったの」
「なるほど・・・。」
ヴァンにとって吉報となるか凶報となるか・・・トマジには分からなかったが、1人情報収集をしてみることで一応収穫はあった。
とにかくそれをヴァンに知らせて、自分たちも行動をしなければ。
「おい、ヴァン。作戦会議だ。」
トマジが、ヴァンが閉じこもっている部屋のドアをどんどんと叩いた。
しかし、気配はあるのに応答は無い。
仕方なくドアを開ける。
「おい、ヴァン。」
「あ・・・トマジ・・・ごめん。」
申し訳なさそうに立ち上がったヴァンの瞳は、すっかり泣き腫らして真っ赤だった。
そして、面目なさそうに悲しみに翳った顔で無理やり笑いを浮かべている。
「くそっ」
「トマジ・・・!?」
トマジらしからぬ声にびっくりして視線を上げると、トマジは何かに耐えるように顔を俯かせ拳を握り締めていた。
「俺は・・・ヴァンの幸せを思って身を引いたのに・・・あいつのせいでそんな顔するヴァンを・・・どうすることもできなくて、腹立たしいぜ」
「トマジ・・・ごめん、俺・・・」
「・・・。」
再びヴァンの声が震えた。
「なーんてな。冗談さ。・・・あいつを見つけたらぶん殴ってやるよ」
「トマジ・・・」
「それより、うちの船長がそんなシケタ顔してたら皆が付いていけないぜ?」
すっかりいつもの調子で、トマジがちょっと意地悪な顔で笑っていた。
トマジの言うとおりだ。俺が、ここでしっかりしなくて空賊やってるなんていえないよな。
「・・・ありがとな、トマジ」
「おうよ」
シュトラールよりは小さい、ヴァンたちの飛空挺。
それでも中央にはいっぱしの操縦室に備えられた、作戦会議のテーブルがあった。
みんなが揃ったのを見て、ヴァンが少し吹っ切れた様子で発言した。
「とにかく、バルフレアの首に大金をかけたヤツラをとっ捕まえればこれは終わると思うんだ。」
「思い当たるフシでもあるのか?」
リュドがヴァンに質問した。
ヴァンは、只首を横に振る。すると、トマジが数枚の紙をテーブルの上に広げた。
「ヴァンたちがシュトラールに居る間、俺は情報収集をしていたんだ。コレが何か分かるか?」
その紙を除くと、そこにはいくつもの盗賊や空賊の名前が記されている。
「今回の賞金首に参加してるやつらをリストアップしてあるんだ。」
みんながそれを覗き込む。すると、フィロが何かに気が付いたように声を上げた。
「あ・・・!ヴァン兄、これって!」
「そう、この手のレースに参加しないわけがないバッガモナン一味が居ないんだ」
バッガモナン一味といえば、何かと絡んできてはしぶとく嫌がらせをしてくるヤツラだ。
バルフレアにも恨みを持っている。
パンネロは、疑問を口にした。
「でも、バッガモナン一味が企んだ事だったとしても・・・にこんな大金があると思えないけど・・・」
「そこさ。無いんだよ、最初から。」
「そういうことか・・・」
そうと分かれば、後はヤツラをとっ捕まえてしまえばいいだけの話。
ヴァンたちは、さっそくバッガモナン一味を追うため準備を始めた。
続く
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