World725

『繋いだ手が離れても』



第四話



 これだけ大きい祭りのような騒ぎになれば、情報も他の空賊や盗賊の動きも読みやすい。
 なんたって、全部動くんだから。


 その辺を、ちょいちょいっと潜り込んで情報を頂けば、単純なバッガモナン一味の構想は読めた。








 俺たちが今いるのは、パラミナ大渓谷を抜けた先にあるミリアム遺跡。
 ここは俺たち意外にも数多くの空賊が張っているポイント。


 ここの奥に発見されていなかった遺跡がさらにあって・・・まだ開けられていない仕掛け扉の先にはお宝があるっていう話だった。
 しかも、その仕掛けを解いてお宝を頂戴しにバルフレアが現れるらしい。


 賞金首狙いたちは、それを張ってるってわけ。
 で、俺たちはそいつらの動きを張ってるっていうこと。





「じゃ、ここはリュド、カイツ、フィロに任せるな」

「うん、任せてよ!」

「ヴァン達も気をつけろ。」





 俺は、全くそのバルフレアの話を信じてなくて・・・多分それはバルフレア自身が撒いた餌だと思っていた。
 だから、奴等の動きの見張りをリュドたちに頼むことにしたんだ。




「もし、何かあったらヴァン兄にすぐ言うね!」

「頼りにしてるよ、カイツ」

「でも、無茶しちゃだめよ」

「「はーい」」



 パンネロは、2人が心配で仕方が無いらしい。パンネロらしいって言えば、パンネロらしいけどな。

 そんな3人を置いて、俺たちは高みの見物を決めるらしいバッガモナン一味に奇襲を仕掛けることにした。





***





 俺たちが降り立ったのは、ボスコ平原だった。

 ミリアム遺跡で聞き込んだ情報から依頼主は浮遊大陸のゼフィルにあるグクマ・クル神殿に拠点を構えているという情報を手に入れた。 

 つまり、そこへ行けばバッガナモン達がいるんじゃないかって踏んだから・・・。


 そこには思いも寄らない人物もいた。





「ヴァン!バルフレアさんだよ」

「しっ・・・様子を伺おう」





 2人が見える少し離れた崖下で、遠くに見えるやり取りにじっと耳を凝らした。

 いつものように余裕な態度のバルフレアに、バッガモナンが腹を立ててるようだった。 





「なんでお前がここに!ミリアム遺跡に行くんじゃなかったのか!?」

「馬鹿だねぇ〜、あんな囮情報にまんまとだまされるとは」

「くそぉ〜〜、お前の首をやつらに獲らせようと思ったのに。」





 バルフレアは、地団太を踏むバッガナモンを鼻で笑ってやった。





「俺をなめてもらっちゃ困るな。」

「それは・・・こっちのセリフだな」




 するとバッガモナンは聖石を空に掲げた。
 バッガモナンの後ろに隠れていた召喚ゲートからどんどん幻獣が溢れ出す。





「なっ・・・」

「俺たちがお前の首を獲るまでだ!」





 そして、地響きがして島全体が揺れだした。





「出でよ、幻獣リヴァイアサン!!!」





 島全体が暗雲に覆われたかと思うと、リヴァイアサンが姿を現した。

 かつて、ヴァンたちが呼び出したときとは違いその瞳は怒りと憎しみに溢れた色を浮かべている。


 そして、口から激しい魔力を放射して島に打ち付けた。
 燃えるように広がった衝撃波でバルフレアにも打ち上げられた岩や破片が襲い掛かった。





「行こう、パンネロ!バルフレアが危ない!」

「うん!」




 俺たちは、岩陰から飛び出してバルフレアに駆け寄った。
 




「バルフレア!」

「ヴァン!なんでお前ら」




 バルフレアは、さっきのリヴァイアサンの攻撃で負傷をしていた。
 右肩から肘まで大きな裂傷が出来て、血を流していた。






「バルフレアさん!腕が・・・今、回復します。」

「すまねーな」





 辺りを見渡すと・・・先ほどバッガモナン達に召喚された幻獣たちが俺たちに向かって移動してくるのが見えた。

 その後ろでバッガモナンが高笑いをしている。




「ざまぁないな!ガキに助けられるとは」

「くそっ」

「ガキっていうな〜〜〜!」




 俺は、剣を抜きバルフレア達をかばうようにして幻獣達の応戦をした。






「皆、目を覚ませ!」





 いくらバッガモナン達が召喚した幻獣とはいえ、今となってはむやみやたらと剣を振るい倒すことに躊躇いがある。

 俺は、とにかく攻撃を避けたりガードすることしか出来なかった。





「きりが無いよ・・・!」

「ヴァン!ここは、まかせて!」





 バルフレアの回復を終えたパンネロが飛び出してきた。




「危ないよ、パンネロ」

「見てて!!」




 パンネロは杖振りかざすと、得意のダンスを踊り始めた。
 パンネロの全身が美しくしなって、そこから優しい空気が生まれて・・・辺りの空気が急に変わった。
 ・・・皆パンネロのダンスにひきつけられていくみたいだった。



キュゥキュゥ〜・・・



 急に、俺たちを攻撃していた幻獣達が攻撃の手を緩め、そして懐くように鳴きだしす。





「やった、パンネロ!」

「うん!みんなに呼びかけてみたの・・・。」

「やるな、お嬢ちゃん」




 バルフレアも立ち上がって、その様子を眺めていた。
 すると、崖の上からバッガモナンが叫んだ。





「くそっ!覚えてやがれ!」





 幻獣を失って不利だと思ったのか、バッガモナン達が一目散に逃げ出した。





「あ、あいつら・・・!」

「ヴァン、危ない!!」




 バッガナモン達を追いかけようと走り出した俺に、パンネロの叫び声が聴こえた。

 その声に振り向くと・・・目の前には、バッガナモン達が居なくなることで混乱していきり立ったリヴァイアサンの姿が眼に飛び込んで来た。





続く




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