『繋いだ手が離れても』
第五話
リヴァイアサンは、ヴァン達の姿をその視界に認めると、身体を震わせ全身に魔力を貯め始める。
そして、溜め込んだ魔力を発散させるように、ダイダルウェイブを島全体に向けて発動した。
物凄い衝撃が島を襲い、島全体が震え出す。
どこからともなく現れた大波が島の端から全部飲み込んでいくのが見えた。
そして、その衝撃に耐えられなかった島々はどんどん崩れ落ちて落下していく。
「こいつは、やばいな。島と心中したくはないぞ。」
「どうしよう、ヴァン・・・。」
「あ!あれは・・・?」
リヴァイアサンを前に戸惑う俺たちに、遠くからシュトラールが降り立つのが見えた。そして、フランが飛び出してくる。
「フラン!」
「皆、大丈夫?」
「あぁ、なんとかな」
「とにかく脱出よ」
フランのその声と同時に、リヴァイアサンがのた打ち回るように暴れだした。
その激しい振動で、島に大きく亀裂が入りだす。
そして、 停まっていたシュトラールもその衝撃に島から投げ出されるようにアンカーが引きちぎられ船体が島から離されてしまった。
「しまった」
「くそっ・・・!」
俺は戸惑う皆を置いて走り出した。
崖のせり上がりまで駆け上がり、懇親の力を振り絞ってリヴァイアサンに語りかけた。
「リヴァイアサン!お前も眼を覚ませ!!」
すると、バルフレアが後ろから大声で俺に叫んできた。
「やめろ、ヴァン!戻れ!!それより、ヤツの気を引いて攻撃されるぞ!」
「あいつは・・・混乱してるだけだ!仲間だったんだ!」
けれど、俺の声はリヴァイアサンには届くことはなくますます激しく身体を暴れさせて今を揺るがしていく。
その時だった。
俺の足元が大きくガクンと揺れて、皆のいる場所から大きく亀裂が入って、そこから引き離されたのが分かった。
「ぼうやが危ないわ」
「ヴァン!!」
パンネロやフランが叫んだ。
前からはリヴァイアサンの放ったダイダルウェイブの波がどんどん押し迫ってくる。
「おい!ヴァンっ」
「バルフレア・・・!みんな逃げろ!!」
その言葉が言い終えられたかどうかは分からないけど・・・
気が付いたらもう崩れ落ちた俺の居た場所は、完全に島から切り離されてた。
バルフレアが延ばした手が遠くに見えたけど、俺はそのまま空に吸い込まれていった。
***
「畜生!」
バルフレアが、小さい作戦会議用の机をたたきつけた。
トマジが呆れたようにバルフレアに言う。
「おい、これは小さくてもヴァンの大事な飛空挺なんだ。壊すなよ。」
バルフレアは、いつもの涼しげな顔などどこへやら怒りの形相でトマジをにらみつけた。
結局、間一髪トマジたちが駆けつけたおかげで崩れ落ちる島から飛空挺に退避できた。
けれど・・・
その広い窓から見える島が全て崩れ落ちていく様子を、みな呆然と見つめる結果となった。
パンネロは、ただひたすらしくしくと涙を流しそれを慰めるようにフランが寄り添っていた。
「だから・・・アンタなんかにヴァンを渡したくなかったんだ・・」
ぼそり、とトマジが呟いた。
言い訳できない自分がいた。無力感に全身を覆われ、何か言葉にすることもできない。
俺はいつからこんなに無力だったか・・・。
最後、バルフレアが手を伸ばしたとき・・・ヴァンは寂しそうに微笑んでいた。
撫でてやると喜んだ柔らかい金色の髪をふわふわとなびかせて。
そういえば、最後にあいつの髪を撫でてやったのはいつだったかな・・・
「ヴァンは・・・バルフレアさんの役に立ちたかっただって・・・私は思います・・・」
涙を堪えて途切れ途切れに、パンネロが話し出す。皆、その幼馴染の言葉に耳を澄ました。
「バルフレアさんに置いていかれちゃって・・・ヴァン泣いてました。俺は、バルの何なんだろうって・・・。」
「だから、俺たちがやれることやろうって・・・結局・・・けしかけたのは俺か・・・」
続けて、トマジが呟いた。
馬鹿だな、ヴァン・・・。
馬鹿は・・・
俺か・・・。
「う〜う〜〜う〜〜〜」
突然クーシーが唸りだした。
「う〜う〜〜う〜〜〜」
「どうしたの、クーシー。」
「大丈夫か?」
「おやぶ〜〜ん、仲間が〜〜呼んでます〜〜・・・」
続く
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