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『うらはらな熱』
(アシュルク)
気を抜きすぎ・・・と、言われてしまえばそれまでだったのだけれど。
ルークは、普段身に着けている重いブーツやアクセサリ、それに武具などを外して外を散歩していた。
多分それは、束の間に与えられた休日が、辛い現実が幻であったかと思わせるほど穏やかで暖かい日差しが差していたせいかもしれない。
道行く人たちも朗らかに、挨拶を交わしながら通り過ぎていく。
そんな雰囲気に癒されて、ルークはすっかり公園のベンチで眠ってしまった。
普段なら纏わり着いて来るミュウにたたき起こされるのだが、今日はミュウはティアに同行していた。
「あれ?」
少しの肌寒さに眼を開ければ、辺りはすっかり夕闇に包まれている。
昼間まであんなにあった人の気配も今はすっかり消えていた。
−−−そろそろ戻らないと・・・
ルークは、眠りすぎて固まった身体をぐいと伸ばすと、自分たちが泊まっている宿へ向かって歩き出した。
が・・・
−−−ここどこだ?
ここでもまた天性の方向音痴が発揮されてしまったのか、見慣れぬ景色にすっかり方向感覚を失う。
しかも、今自分が歩く道の先には酒場やいかがわしい店が煌々と看板を掲げている。
果たして自分がこの道を通ってきたかどうか・・・余りに違う昼と夜の顔に判断がつきかねていた。
ドンっ
「いったぁ〜〜」
「道の真ん中で突っ立ってんじゃねーよ、坊主」
運悪く、見るからに柄が悪いですと書いたような連中に肩をぶつけられた。
やたら背が大きいのと、やたら小さいのと、中くらいでやたら横に広いのと3人組。
「おっと、男の割りにずいぶん別嬪さんだな」
「なんだと!」
「おっと、やるのか!?」
相手の挑発に乗ってしまっているとは分かっていても許せない。ルークは、腰に手をかけてはっと気がつく。武具は全部宿だ。生憎魔法は苦手で習得を避けたまま・・・。
瞬時にまずいと判断したルークは、横に広い男を突き飛ばすと路地裏へ逃げ込んだ。
「待て!この野郎!」
「しつこいっつーの・・・」
曲がり角を曲がって、走って、曲がって・・・いつのまにか行き止まりにたどり着いてしまった。
もう自分がどこにいるのかサッパリ分からない。
とにかく奴等がここに来ないでくれれば・・・。
「見つけたぜ」
「可愛がってやるぜ?」
いやらしい笑いを浮かべて、3人組みがにじり寄ってきた。
こうなれば仕方ない、素手で戦うしかない。
構えるルークをよそ目に、小さいほうの男が懐から何やら小さいビンを取り出すとルークにぶちまけた。
「うわっ」
「今のうち捕まえろ!」
液体は紫色をしていて、あっというまにルークの身体はしびれて動けなくなる。
−−−毒薬か?
3人の男が、ルークの細身の身体にのしかかってくる。このままやられるわけに行かないと、ルークも毒に犯されてるとはいえ懇親の力で暴れる。
「あばれるんじゃねーよ」
横に広い男が、腰に差していた短剣を取り出しルークの動きを止めるために刃先を突き刺した。
「いっ・・・」
「切り刻まれたくなかったら、大人しくするんだな」
辛うじて動かせた身体が、刃先が脇腹を貫くのは避けることができたが、やや深い切り傷が出来た脇腹からは血が流れ出た。
再び、男たちの手が伸びてきてルークの衣服を取り去ろうと引きちぎる、
ルークは、痺れの回る身体になす術もなくぎゅっと瞳を閉じた。
−−−助けて・・・アッシュ!
「・・・助けないわけには行くまい」
ありえないタイミングで、頭上からアッシュの声がした。
そんな、ヒーロー登場みたいな・・・
「お前の心は筒抜けだ」
3人組みは慌てて身を起こし、アッシュを見やる。1人で話すアッシュに気でも違ったか?というような視線を送る。
「そいつを返してもらおうか。」
アッシュもまた、視線を3人組に移し威嚇するように睨み付けた。そして、腰の剣を抜き構えた。
「お前たちが切り刻まれたくなければ大人しくしな」
「なんだと!」
「アニキ!」
アニキと呼ばれた横に広い男が、神妙な顔をして言う。
「こいつは・・・六神将、鮮血のアッシュだ・・・分が悪い。」
「くっ」
「ふん、分かったらさっさとそこをどけ」
3人組みは悔しそうに舌打ちすると、そそくさとその場を去っていった。
路地裏の隅で、小さく震えるルークが視界に入ってきた。
いつのまにか完全に日は沈み、そこを照らすのはやたら近くに見える満月の光だけだった。
「来い、帰るぞ」
アッシュに声をかけられ、ビクリとルークは肩を震わせた。
しびれる身体に活を入れて、なんとか立ち上がりアッシュへ近寄ろうとする。
「・・・うっ・・・」
「おい、どうした」
しかし、数歩も歩かぬうちに再びしびれに負けて体から力が抜けてしまう。
崩れ落ちるルークの身体をアッシュが抱きとめた。
「・・・ごめ・・・ん・・・毒かな・・・?」
辛そうな顔をしかめて、笑ってごまかそうとするルーク。
アッシュは、事情を察するとルークをあっさり抱き上げた。
「ア、アッシュ」
「・・黙れ」
自分の腕の中で慌てるルークを気に留めることなく、アッシュは、ルークをつれ自分の取っている宿へと引き上げていった。
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