『夢(アッシュ編)』
『・・・ここは屋敷か?』
オラクルの六神将、鮮血のアッシュとなってから、ここに足を運ぶことなど皆無に等しかった。
しかし、ルークと出会い様々な経緯を経て、アッシュはたまにではあるが確かに屋敷に足を運ぶことがあった。
『しかし、なぜ今ここに?』
曖昧なまま戸惑いを感じながらも、アッシュは屋敷の扉を開いた。
「おかえりなさいませ、アッシュ様。」
「よくぞおいでくださいました、アッシュ様。皆様がお待ちかねです。」
扉をあけると、メイドたちがいっせいにお辞儀と挨拶を、そして執事が声をかけてきた。
『一体、どうなってるんだ・・・?』
執事やメイドにそう掴みかかり問いただそうにも、思うように身体は動かず言葉を発することもできない。
そもそも、堂々と屋敷を訪れている理由も、何故屋敷に足を向けたかという理由も分からない。
混乱する思考をもてあましながら、身体は立ち止まることなく勝手に屋敷を進んでいった。
「・・・てあげてよね。」
「・・ろみんなが・・・。」
広間に続く扉の奥から、何やら大勢の楽しそうな話し声や笑い声が聞こえてきた。少しだけ、自分が屋敷にいて母上に可愛がられ、父上に鍛えられ・・・そして、ナタリアと夢を語っていた、そんな日々を懐かしく思い出し切なく感じていた。
しかし、今はそんな状況ではない。現実は、自分が誘拐されルークがレプリカとして作られた時、辛く悲しいものへ変わってしまった。しかも、辛い現実は刻一刻と変わっていて、自分にもルークにも残された時間は長くない。
とにかく、ワケの分からない状況から抜け出すため、ノックもせず広間の扉を開けた。
「おぉ、アッシュ。遅いので心配したぞ。」
目も前には信じられない光景が広がっていた。
父上と母上、それにガイ、そして寄り添うティア・グランツとヴァンがそこにいた。
そして、彼らに囲まれるようにルークがいた。やや驚いた顔でこちらを見あげ、そして微笑んだ。
・・・これは・・・夢・・・?
「アッシュも元気そうで・・・さぁ、そこにかけなさい。かわいい私の息子たち・・・」
母上の声がこだましたかと思うと、急に周りがめまぐるしく揺れだした。
気がつくと、タタル渓谷にルークと2人きりだった。
腕の中には、ルークがいた。
ルークは、終始無言で俺を見詰めている。その瞳には、いつもの悲しくあきらめたような色は浮かんでいない・・・
なぜか、喜びの色を称えていた。
・・・そうか・・・これは夢か・・・
都合のいい夢だと思った。しかし、こんな夢に溺れ浸るのもたまには悪くない、と思いルークを見つめ返す。急に心の小波がピタリと収まった気がした。
現実じゃコイツを求めることはプライドが許さなかった。しかし、自分の片割れを求めるように、ルークを求める気持ちは止むこと知らない。
顔を合わせれば、心の声とは真逆の言葉でルークを傷つけてしまう。
本当は声を出して、アレは全部嘘だ、俺はお前を憎んでなどいない・・・そう伝えたいのに、もし言葉を発すればこの夢の時間が終わってしまいそうだった。
もどかしい思いで身体を離したアッシュは、ルークの瞳をまたそっと覗き込む。いつのまにか、瞳をふせ静かに涙を流すルークに、アッシュはそっと頬に流れる涙をぬぐった。そして、そっと触れるような口付けをした。
ルークは、最初驚いたように身体を緊張させた。が、口付けが次第に深くなるにつれて、身体の緊張を解きアッシュへゆっくり身をゆだねた。
このまま一つに解けてしまいそうだ・・・。そして、ついに俺は名前を呼んでしまった。
『ルーク・・・』
心でそう呼びかけたとき、ふと目が覚めた。目の前には、心配そうに覗き込むイオンがいて・・・。
「大丈夫ですか?」
「導師イオン・・・」
「あなたが、深手を負っているという話を聞きました。様子を見に来たのですが・・・」
慌てて身を起こすが、体中に走る痛みに顔を苦痛にゆがめた。。
「・・・くそっ・・・」
「無理をなさらないでください。まだ、治癒の譜術がいきわたるまでには時間がかかりますから。」
自分だって死にそうな青い顔をしているじゃないか。アッシュは、心配そうに自分を覗き込む導師イオンを見つめながら、考えていた。
こいつもまたレプリカ・・・か。
ふと、そこになぜかルークのかけらが見え隠れするようで少し穏やかな気持ちになりながら、アッシュは再び目を閉じた・・・。
END
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