『夢(ルーク編)』
『あれ・・・ここは屋敷?』
なんだかちょっと違和感を感じながら、ルークは身を起こした。ヤケに静まり返った屋敷内に、外の様子が気になって中庭へ出た。
「よう、ルーク。遅いお目覚めだな。」
なんで俺たちはここにいるんだ
とか
戦いはどうなったんだ
とか
すごい疑問が思い浮かぶのに、口から言葉が出てこない。
『一体、どうなってるんだ・・・?』
「広間でみんなが待ってるぜ、早く行って来いよ」
みんなって誰だ・・・?
よく状況が把握できなくて、急いで俺は広間へのドアを開けた。
「遅いぞ、ルーク。皆様をお待たせして。」
「あら、あなた。ルークは、身体が弱いからいいのです。」
いつもと変わらぬ、いやもういつもじゃなくなった両親の会話だった。
それどころか、ティアとヴァン師匠も並んで座っている。
「我々は構いません。今日もあとで稽古をつけようではないか。」
「兄さん、少しはルークに手加減してあげてよね」
どうして?それは敵だって思うのに。
ヴァン師匠の隣でうれしそうに笑うティアが余りに幸せそうで俺は悲しい気持ちになった。
「さぁ、ルークもおかけなさい。そろそろみんなが揃うわ」
みんな・・・?
すると、俺と同じくらいあせったように勢い良くドアが開いた。
「おぉ、アッシュ。遅いので心配したぞ。」
俺は、驚いて目を見張った。どうして、ここに?父上は、あたかも俺たち2人がここに揃うことが当然のように振舞っている。
アッシュも、少し驚いたように俺を見つめたけれど・・・いつもだったら考えられないような、優しい微笑みを浮かべた。
・・・これは・・・夢・・・?
「アッシュも元気そうで・・・さぁ、そこにかけなさい。かわいい私の息子たち・・・」
母上の声がこだましたかと思うと、急に周りがめまぐるしく揺れだした。
気がつくと、タタル渓谷にアッシュと2人きりだった。
言いたいこと、聞きたいこと、伝えたいことはたくさんあるのに、また俺の口は開かない。
アッシュも、終始無言で俺を見詰めている。その瞳は、いつも冷たい色は浮かんでいなくて・・・
・・・どうせ・・・夢なら・・・
俺は、アッシュに抱きついた。すると、アッシュも俺に腕を回しきつく抱きしめ返す。
現実じゃ絶対実現しないこと。俺はどんなにアッシュを求めても、アッシュにとっては全てを奪った憎い奴なんだ・・・。
でも、夢の中ならこうやって甘えることも、抱きしめ返してもらうこともできる。
本当は声を出して、名前を呼びたかったけど・・・声を上げたらこの夢が終わってしまいそうだった。
身体を離したアッシュは、そっとルークの頬に流れる涙をぬぐった。そして、そっと触れるような口付けをした。
ルークは、最初驚いたように身体を緊張させた。が、口付けが次第に深くなるにつれて、身体の緊張を解きアッシュへゆっくり身をゆだねた。
このまま一つに解けてしまえたらいいのに・・・。そして、ついに俺は名前を呼んでしまった。
『アッシュ・・・』
心でそう呼びかけたとき、ふと目が覚めた。目の前には、心配そうに覗き込むガイがいて・・・。
「大丈夫か?」
「え・・・」
「アッシュって呼びながら、泣いてたからさ」」
慌てて身を起こして、顔をこすると涙のあとがあった。
「うん・・・」
「辛いなら泣いとけ。俺が秘密にしておいてやるさ」
いつもの冗談っぽく、ガイは笑いながらそういって、俺を抱きしめてくれた。俺は言葉に甘えて・・・少しだけ涙をこぼした。
行き場のない、アッシュを求めてしまうこの想いを嘆くように・・・。
END
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