『夏バテにはご用心。』
「なんだ、だらしないな。」
俺は、トマジの働く酒場に来ていて・・・カウンターテーブルの隅っこで突っ伏していた。
「砂漠の子が夏バテとは頂けないな」
「そんなこといったってさ・・・」
ここ連日うだるような暑さ。
しかも、飛空挺に乗って世界を駆け巡っている日々が続いたせいか・・・寒さには慣れたけど暑さには弱くなったのかもしれない。
「トマジ様特製、夏バテドリンクでも飲んで元気出せよ」
「響きが信用ならないよーな・・・」
「失礼なヤツだな!やらないぞ?」
顔を上げれば、目の前に用意されたシャンパングラスには。
シャンパンの見まごうばかりの琥珀色の液体に小さな気泡がぷつぷつと沸いていた。
そっと口をつければ、爽やかな柑橘の香りとほんのりと添えられた甘み、強すぎない炭酸が心地よく喉を滑りぬけていった。
「うまいだろ?」
「うん!ありがとな、トマジ。」
「へへ。」
冷たいドリンクのおかげで少し気力がわいてきた。
よっしゃ、いっちょ軽くモブ狩りでも行って来るか!と、スツールから腰を上げようとすると、トマジが呼び止めた。
「おっと、待てよヴァン。2階の俺の部屋に、お前にとっておきの土産があるんだ。」
「手伝いばかりのお前がどっか行ったのか?」
「まぁまぁ、詮索は無しだ。」
トマジのお決まりの得意げな笑顔が浮かんでいる。「もちろん寄って行くだろ?」っていう顔。
もちろん、俺はとっておきなんて言われたら気になってしょうがない。一足先に2階へ上がっていった。
トマジの部屋は、本人の性格を現していて、狭い割にはかなり几帳面に整理整頓されている。
部屋の中央にある小さいテーブルの上にのっている小箱が2つ。
これか?
そっとそれに手を伸ばそうとすると、再び部屋のドアが開いてトマジが入って来た。
「そうそう、それ。開けてみろよ」
俺はさっそく小さい1つ目の箱を開けると、オレンジがかった小瓶がはいっていた。
そして、もう1つの箱には持ち手に何やら真珠のような宝珠が連なったもの。
「何これ・・・?」
「あれ?お前、全然知らないわけ?」
トマジのちょっとこバカにした言い方についカチンと来る!
「し、知らないよ!文句あるかよっ」
「ふぅん・・・知ってても知らなくても、使う気だったけどな」
トマジの言葉が、理解できないけれど・・・にじり寄るトマジに焦って俺は後ろに下がろうとした。
けど・・・
「あ・・・」
思うように力が入らなくて、そこに膝を突いてしまった。
「なに・・・?」
「これってさー。セットで使うとめちゃくちゃいいわけよ」
俺の異変など気にも留めないように、いつもの調子で話しながら・・・トマジは「よいしょ」なんて言いながら俺を部屋のベッドに引き上げた。
「この小瓶の中身は・・・お前にさっき下で飲ませたあれね。薄めたけど」
「あれって、だって・・」
「まぁ、お前は騙されたんだな」
戸惑う俺を無視して、トマジは涼しい顔で今度は俺の衣服を脱がしにかかった。
「ちょっと・・・待てよ!トマジ、何してるんだよ」
「そろそろ身体に異変起きてるだろ?それをこれで気持ちよくしてやろうってのさ」
これ、と言ってさっきの真珠の連なったそれを見せてきた。しかも、カチリっという音とともにそれが震えている。
「えっ・・・」
「大丈夫だって、バルフレアさんには黙っててやるから。」
「そういう問題じゃ・・・んっ・・・」
トマジが身体を撫でてくる。その変な飲み物のせいで熱くなった身体は、全部の神経を敏感にさせるらしくって・・・俺は、湧き上がる熱い息を我慢できなかった。
「おっと・・・我慢するなよ、俺に聞かせろよな」
「トマジ・・・やめっ・・・」
なんだか。
まだバルフレア程すれてないけど・・・その強引なやり方と、余裕の笑みと・・・語りかける言葉がバルフレアと重なってしまう。
やだ・・・バルフレア・・・
「考えごとか?余裕だな」
「ひやっ・・・」
トマジが、布越しの俺の熱の集まったそこをぐっと掴んできた。
「や、やめ・・・!」
「その辺にしておいてもらおうか?」
俺が悲鳴を上げるのと同じくらいに、へやのドアが開いてそこにバルフレアが立っていた。
「お楽しみのようだが・・・そいつは俺のもんなんでね」
「残念、見つかっちゃーしょうがない」
口調はふざけているようだけど、睨み合う2人の視線は真剣で。
俺は、2人の仲裁に入ろうと慌てて飛び上がった。
けど・・・
「わっ・・・」
変な飲み物のせいで力の入らない身体は、なんとかトマジの下から抜け出すことはできたものの床に崩れ落ちてしまった。
熱い身体も言うことを聞かなくて、唇からもれる吐息も荒く熱い。
「おい、大丈夫か」
「・・・んぁ・・バル・・」
バルフレアに抱き上げられると・・・俺、結構トマジの真剣な顔にびびってたんだって自覚した。
バルフレアの腕に抱かれた安心感で気が緩んだのか・・・急に熱い何かが込み上げてきた。
「・・・ふっ・・・バル・・・」
「泣くな、いい子だ。」
あやすように、俺の髪を撫でてくれる。俺は、バルフレアの匂いと温もりが恋しくなって、ぎゅっと身体に抱きつき顔をうずめた。
トマジはじっとそれを見つめていたが、肩をすくめた。
「これに免じて見逃してくれよな」
そう言うと、トマジはさっきの小瓶と変なモノを詰めた箱をバルフレアに投げた。
「次は無いと思えよ」
バルフレアの低い声を背中に聴きながら、トマジはさっさと部屋から退散していった。
静まり返った部屋に、自分の熱い呼吸の音だけが響き渡った。
正直・・・つらい・・・。
「おい、ヴァン。これ飲まされたのか?」
「うぅ・・だって、夏バテ治るっていうから・・・」
「ったく、しょーがねーな」
バルフレアは軽々俺を担ぎ上げた。さっきトマジから受け取った箱も忘れず手にして。
「ここじゃ、気分悪いしな。宿へ行くか」
「・・・うん・・。」
俺は、バルフレアに抱えられ、トマジの視線を避けながら酒場を後にした。
もちろん、歩み去る2人の後姿を見送りながら、次なるヴァン誘惑の手段を考案しているトマジのことなど、俺は知る由もなかったけど・・・。
END?
↓
おまけ
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